物件の特徴

　平成元年に５号住居跡から出土した肩〜脚部(３片)と、平成20年に10号住居跡から出土した頭部(１片)が同一個体の土偶として接合した。本土偶は縄文時代中期勝坂式の所産と考えられる。
　接合した土偶の全長は16.9�p、最大幅は8.4�p、腹部から尻部の最大厚は3.7�pである。正面の形状は腕が十字状に開かれ、胴部は細くくびれ、腰部が極端に張り出す特徴を持つ。背面はやや平坦であるが弓なりに反り、臀部最下端がせり出している。これらの特徴は縄文時代中期初頭に中部高地から南関東にかけて成立する有脚立像の特徴を含むものである。ただ本例は脚部の表現が省略されており、立像ではなく板状を呈する点がやや特異である。立像タイプが形状安定のために極端に重心を低く持つことに対し、本例は脚部省略によって胴下半部の曲線が極めて優美に造形されている。
　　顔面の輪郭は、おかっぱ状の弧を描き、顎から首は一体となる。眉と目及び口が表現され、鼻は省略されている。両眼の下が僅かに短く線刻されている。胴部に対して顔部が僅かに右にかしいで表現されている。頭部背面は大きく欠落しているが隆帯による貼付文が施されている。胸部には乳房の間より正中線が描かれ、刺突によって臍が刻まれる。胴下半部には対称弧刻文が削ぎ取るように描かれる。頭部以外の背・側面は無文で、対称弧刻文以外の部分はよく磨かれ光沢を帯びている。後に出土した頭部のみ風化が著しい。
　　対称弧刻文内部には、僅かに白色粘土状の物質が残存しており、焼成後の表面塗彩の痕跡である可能性がある。極めて類例の少ない同時期の南関東の土偶ながら、同様の白色物質の付着は、府中市本宿町遺跡や多摩ニュータウン��471遺跡の出土例にも確認されており、土偶使用の具体例を示す可能性がある。　　　　　　　　　

指定理由
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　胴下半部の曲線が優美に造形された本土偶は、肩〜脚部と頭部とが20年程の歳月を経て発見されたものである。同一遺跡内で100ｍ程を隔てた２軒の住居跡から発見されたこれらの部位が、同一個体の土偶として接合をはたした極めて特殊な事例である。また、白色粘土状物質の付着という土偶使用のひとつの具体例解明の手掛かりとなり得る特徴を有しており、縄文時代中期の土偶祭祀のあり方を探る上で、極めて重要な資料である。